「ヨーグルトを食べると花粉症がやわらぐ」という話を耳にしたことがある方も多いでしょう。
毎年、春が近づくとくしゃみや鼻水に悩まされている方は少なくありません。
日本では花粉症の有病率が年々増加しており、2019年の全国調査では42.5%に達したと報告されています。
結論から言えば、ヨーグルトに含まれる乳酸菌やビフィズス菌は腸内環境を整え、体の防御反応のバランスを調整する可能性があるとされています。ただし、薬のような即効性は期待できず、継続的な摂取が前提となります。
この記事では、花粉症とヨーグルトの関係、取り入れ方のポイント、食事全体で考える視点について解説します。
監修者

天白橋内科内視鏡クリニック院長
野田 久嗣 Hisatsugu Noda
医学博士
日本内科学会認定内科医
日本消化器病学会消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医
がん治療認定医
花粉症対策としてヨーグルトが注目されている理由とは?
花粉症対策としてヨーグルトが注目される背景には、腸と体の防御システム(免疫)の深いつながりがあります。
腸は単なる消化器官ではなく、体を守る機能の中心的な役割を持っています。
なぜ腸内環境を整えることが花粉症対策につながる可能性があるのか、まずはその基本的な仕組みを見ていきましょう。
ヨーグルトを取り入れる前に、腸と体調の関わりを理解しておくことが大切です。
腸内環境が整うと体の防御バランスはどう変わる?
腸には体全体の防御機能を担う細胞の約60〜70%が集中しているとされています。
消化管は口から肛門まで一本の管でつながっており、その中でも腸は外界と密接に関わる器官です。食べ物と一緒にウイルスや細菌なども入ってくるため、有害なものを排除する機能が腸に集まっているのは理にかなっています。
腸内には約1,000種類、100兆個もの腸内細菌が生息しています。これらは「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類され、善玉菌が優勢な状態を保つことで腸内環境が整います。
善玉菌の代表格である乳酸菌やビフィズス菌は、腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。腸内環境が乱れると、体の防御システム(免疫)にも影響が及ぶと考えられています。
逆に、腸内環境が整っている状態では、免疫のバランスが保たれやすくなります。ヨーグルトに含まれる乳酸菌やビフィズス菌が腸内環境の改善に役立つことから、花粉症対策としても注目されるようになりました。
花粉症はなぜ起こる?体の中で起きていること
花粉症は、体の防御システムが花粉に対して過剰に反応することで起こります。
本来は体を守るための仕組みが、害のない花粉にまで反応してしまう状態です。体内に花粉が侵入すると、防御システムを担う細胞がこれを異物と認識します。
その際、Th1細胞とTh2細胞という2種類の免疫細胞が、互いにバランスを取りながら働いています。花粉症の方はTh2細胞が過剰に働く傾向があり、IgE抗体が産生されてアレルギー症状を引き起こします。
腸内細菌は、この防御システムのバランスに影響を与えることがわかってきました。腸内環境が整っていると、過剰な反応を抑える「制御性T細胞」の働きが促進されるとされています。
乳酸菌やビフィズス菌を摂取することで腸内環境が改善され、防御システムのバランスが整う可能性があると考えられているのです。
ただし、すべての人に同じ効果があるわけではありません。腸内細菌の構成は人それぞれ異なるため、効果には個人差があることを理解しておく必要があります。
花粉症対策とヨーグルトに関する研究報告
腸内環境を整えることが体の防御システムに影響を与えるという研究が進むにつれ、ヨーグルトへの関心が高まっています。
なぜ数ある食品の中でもヨーグルトが特に注目されているのか、食生活の視点と、継続することで期待される変化から詳しく見ていきます。
特定の乳酸菌に着目した研究例
ヨーグルトが花粉症対策として注目される理由の一つは、手軽に善玉菌を摂取できる点にあります。
ヨーグルトには乳酸菌やビフィズス菌が豊富に含まれており、これらが腸内の善玉菌として働きます。
乳酸菌などの善玉菌(プロバイオティクス)の摂取が、アレルギー性鼻炎の症状改善につながるとされており、L-92乳酸菌、BB536ビフィズス菌、LGG乳酸菌など、特定の菌株に着目した研究報告もあります。
ただし、自分に合う乳酸菌は人によって異なります。専門家からは「人それぞれ腸内細菌との相性がある」と指摘されています。
すなわち、ヒトとプロバイオティクスとは相性があり、ある人にとって良いプロバイオティクスも他の人には効果がないということもあるので、両者のこの遺伝的な相性の関係を明らかにする必要があると考えられる。将来、この問題は極めて重要になると考えられる。
引用元:プロバイオティクスとその多様な機能
ヨーグルトだけを摂っていれば良いわけではありません。腸内細菌は分業制で働くため、さまざまな種類の菌が必要です。バランスの良い食事と組み合わせることで、ヨーグルトの働きが発揮されやすくなります。
継続摂取と症状変化の報告例
ヨーグルトを花粉症対策として取り入れる場合、継続的な摂取が前提となります。
腸内環境が変化するには一定の期間が必要だからです。
いくつかの臨床研究では、乳酸菌を含むヨーグルトを一定期間継続して摂取した結果、くしゃみや鼻づまりなどの症状に変化が見られたと報告されています。
参照元:
L-55 含有ヨーグルト飲用のスギ花粉症に対する臨床効果の検討
ビフィズス菌BB536によるスギ花粉症改善効果:ヒト試験の結果から
研究によって使用された乳酸菌の種類や摂取期間は異なりますが、数週間から数か月の継続が共通点として挙げられます。
厚生労働省の情報でも、乳酸菌による花粉症への効果については、一定の研究報告はあるものの、現時点では有用性の確認にはさらなる検討が必要とされています。
期待できる変化の程度には個人差があります。「少し症状を和らげる可能性がある」くらいに考え、症状がつらい場合は医師に相談することが大切です。
花粉症対策でヨーグルトに即効性がない理由
ヨーグルトを食べ始めてもすぐに症状が改善しないのはなぜでしょうか。
ヨーグルトは薬とは異なり食品であり、体の状態に変化が現れるまでには一定の時間がかかります。
即効性を期待しすぎず、体質改善という視点で捉えることが大切です。
体質改善に時間がかかる背景
ヨーグルトに含まれる乳酸菌が花粉症に働きかける仕組みは、薬とは根本的に異なります。花粉症の薬の多くは、ヒスタミンという化学物質の働きを抑えることで症状を軽減します。
一方、乳酸菌は腸内環境を整えることで体の防御システムのバランスに影響を与え、花粉に対する過剰な反応が起こりにくい状態へと導くと考えられています。個人差はありますが、腸内環境が変わるまでには数週間かかるとされています。
善玉菌を毎日摂取し続けることで、腸内細菌のバランスが少しずつ変化していきます。さらに、防御システムのバランスが整うにはそれ以上の時間が必要です。
外部から摂取した乳酸菌は、腸内に定着し続けるわけではありません。数日で便とともに排出されてしまうため、毎日継続して摂取することが求められます。
花粉症のシーズン直前に慌てて食べ始めるのではなく、シーズンの2週間以上前から取り入れることが望ましいでしょう。
短期間で判断しにくい点
ヨーグルトによる変化を短期間で判断することは難しい面があります。花粉症の症状は、その日の花粉飛散量や体調、睡眠状態など多くの要因に左右されるためです。
1週間や2週間食べて「効果がなかった」と判断するのは早計かもしれません。自分に合う乳酸菌かどうかを見極める目安として、便の状態を観察する方法があります。
お腹の調子が良くなったと感じる場合は、その乳酸菌が体質に合っている可能性があります。2〜3週間程度続けて様子を見る一つの目安とされることがあります。
症状がつらい場合は、ヨーグルトだけに頼らず、医師の診察を受けることが大切です。ヨーグルトはあくまで食品であり、治療の代わりにはなりません。
花粉症対策としてヨーグルトを取り入れるポイント
ヨーグルトを花粉症対策に活用するなら、続けやすい方法と食べるタイミングを知っておくと効果的です。
日々の生活に無理なく取り入れるための具体的なポイントを紹介します。
継続しやすい取り入れ方
ヨーグルトを習慣として続けるには、自分の生活スタイルに合った方法を見つけることが大切です。
農林水産省の食事バランスガイドでは、牛乳・乳製品の摂取目安として1日2つ分が示されています。ヨーグルトの場合、商品にもよりますが、食べ切りサイズを1〜2パック程度が一つの目安と考えられます。
続けやすくするためのポイント
- 朝食や間食に取り入れ、毎日同じタイミングで食べる習慣をつける
- 甘みが欲しい場合は、善玉菌のエサになるオリゴ糖やはちみつを加える
- 食物繊維を含むバナナ、キウイ、ナッツなどと組み合わせる
- 複数の種類のヨーグルトをローテーションして試してみる
食物繊維は善玉菌のエサとなるため、ヨーグルトと一緒に摂ることで腸内環境を整える点で相性が良いとされています。果物やシリアル、きな粉などを加えると、栄養バランスも良くなります。
同じヨーグルトを食べ続けて変化を感じない場合は、別の種類を試してみるのも一つの方法です。乳酸菌の種類によって特徴が異なり、自分の腸内細菌との相性もあります。
食べるタイミングの考え方
ヨーグルトを食べるタイミングは、目的によって異なります。腸内環境を整える目的であれば、食後に摂る方法が一つの考え方です。
乳酸菌やビフィズス菌は胃酸に弱い性質があります。空腹時は胃の中の酸性度が高くなるため、食後の胃酸が薄まった状態で食べることで、胃酸の影響を受けにくくなると考えられています。
夜に食べることもおすすめです。腸は夜間に活動が高まるとされており、就寝前の時間帯に腸内環境を意識する考え方もあります。
小腸で防御機能を担う細胞のメンテナンスが行われる時間帯に合わせる考え方です。朝食後、昼食後、夕食後のいずれでも構いませんが、毎日同じタイミングで食べることで習慣化しやすくなります。
自分の生活リズムに合わせて、続けやすい時間帯を選びましょう。
ヨーグルトだけに頼らない花粉症対策の考え方
ヨーグルトは花粉症対策に役立つ可能性がある食品ですが、それだけで十分というわけではありません。
腸内環境を整え、体の防御機能を正常に保つためには、日々の食事全体のバランスを意識することが重要です。日常の食生活で意識したいポイントを確認しておきましょう。
ヨーグルトだけでは十分とはいえない理由
ヨーグルトは手軽に乳酸菌を摂れる食品ですが、含まれる菌の種類は限られています。腸内環境を整えるためには、特定の菌だけでなく、さまざまな種類の菌を取り入れる視点も大切です。
ヨーグルトを毎日食べていても、偏った食事ではその働きを十分に発揮できません。腸内細菌は種類によって役割が異なり、菌によって好む食べ物も違います。多様な食材を摂ることで、腸内細菌の多様性も保たれやすくなります。
乳酸菌はヨーグルト以外にも、味噌、漬物、キムチ、納豆などの発酵食品に含まれています。納豆菌や麹菌など、発酵食品に使われる菌にはさまざまな特徴があることがわかってきています。
複数の発酵食品を日々の食事に取り入れることで、より多様な菌を摂取できます。研究では、乳酸菌や納豆菌が、青魚やアマニ油に含まれるオメガ3脂肪酸と関わりながら、アレルギー反応に関与する物質の産生に影響を与える可能性が示唆されています。
腸内細菌と食品の組み合わせを意識することが、これからの腸活では重要になりそうです。花粉症の症状がつらい場合は、食事だけでなく医師による治療も検討してください。
ヨーグルトは薬の代わりにはならず、あくまで食生活の一部として位置づけることが大切です。
腸内環境を整えるために意識したい食習慣
腸内環境を良好に保つためには、日々の食生活で以下の点を意識すると良いでしょう。
善玉菌を増やす食事のポイント
- 食物繊維を積極的に摂る(野菜、果物、海藻、豆類、全粒穀物など)
- 発酵食品を毎日取り入れる(ヨーグルト、納豆、味噌、漬物など)
- 脂肪分の多い食事を控えめにする
- アルコールの摂りすぎに注意する
食物繊維は善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えるために欠かせない栄養素です。
日本人の食事摂取基準では、成人では1日あたりおおよそ男性20~22g以上、女性18g以上の食物繊維摂取が目安とされています。
高脂質・高たんぱくの食事や、食物繊維の少ない食事は、腸内細菌のバランスを崩しやすいと考えられています。揚げ物や脂身の多い肉の食べすぎには注意が必要です。
食事以外にも、規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動、ストレス対策が腸内環境に影響を与えます。
食生活を整えながら、生活習慣全体を見直すことが、花粉症対策への近道といえるでしょう。
食事だけで様子を見ないほうがよいケース
ヨーグルトは花粉症対策の一助にはなりますが、すべての人に合うわけではありません。
症状の程度や体質によっては、食事だけで様子を見るのではなく、別の対応を検討したほうがよいケースもあります。
受診を考えたいサインの目安
次のような状態が続いている場合は、受診を検討する一つの目安といえるでしょう。
- 日常生活や仕事・勉強に支障が出ていると感じる
- 鼻づまりや目のかゆみなどで睡眠に影響が出ている
- 市販薬やセルフケアを続けてもつらさが改善しない
- 例年と比べて明らかに症状が重いと感じる
これらに当てはまる場合、無理に我慢を続ける必要はありません。
ヨーグルトが体質に合わないこともある
ヨーグルトは健康的な食品ですが、体質によっては合わないこともあります。
たとえば、乳糖不耐症のある方では、ヨーグルトを食べたあとに腹痛や下痢、膨満感などの不調が出ることがあります。
このような場合、無理にヨーグルトを続ける必要はありません。体調を崩してしまっては、本来の目的から離れてしまいます。
症状が強い場合は医師に相談を
花粉症の症状が強い場合は、食事だけで対処しようとせず、耳鼻咽喉科やアレルギー科などの医療機関で相談することで、症状に合った治療を受けられます。
ヨーグルトや食生活の見直しは、あくまで日常ケアの一部です。必要に応じて医師の診察を受けることも、花粉症対策の大切な選択肢の一つといえるでしょう。